生活と人生

 横須賀市池上にあるぶどうの木にて、月一回行っているという音楽の時間を見学させていただきました。

キーボードを弾く講師を囲むように、車椅子や椅子に座って季節の歌などをみんなで歌います。歌詞の雰囲気を共有するように、利用者の横で手振りを交えて歌うスタッフもいました。また別のスタッフによる紙芝居では、物語にでてくる歌を振り付きでみんなで歌います。椅子から離れて目の前で聞く利用者もいて、大盛り上がり。後から聞くと、そのスタッフは即興でメロディーをつけて歌っていたそうです。

 

ぶどうの木は、障害者施設で事務員をしていた大岡めぐみさんが、看護師をしていた同僚と一緒に立ち上げた施設で、今年で3年目になります。

音楽療法士の知り合いがいたため、開所時から音楽療法を取り入れ、今年度から今日見学させていただいた音楽の時間も始めました。毎日、朝の会で「あいさつの歌」を歌って始まるそうです。理解の仕方が様々だったとしてもそれもよし、それでいい、歌の時間はみんなでいっしょの時間を過ごせる、と大岡さんは話します。

 

「芸術って、どうしてあるんでしょうね。」唐突に大岡さんから投げかけられました。大岡さんは本を読むことが好きなのだそうですが、読んでいるときに時間を無駄にしているような罪悪感に駆られることがあるそうです。「畑を耕すことに比べると、なくてもよいように思われる。でも世界中のあちこちで芸術が存在するということは、やっぱり必要なものなんでしょうね。」価値を転換するもの、人と人とのあいだで交わされる表現…。わたしたちも、芸術って…と思いをめぐらせます。

 

大岡さんは、人にとって『生活と人生』の両輪が大切であると考えているそうです。「ごはんを食べて、お風呂に入ってという『生活』だけではなく、例えば歌をうたったりテレビを見たりすることもあって『人生』が豊かになる。どちらも大事」と話します。そして人生を動かすもののなかに芸術があり、心を動かすことが人生を豊かにするのではないか、と話してくださいました。

 

続けて、障害のある方がもっと芸術に触れられるためには、どんなことが必要と考えられるかを尋ねました。「障害のある方と一緒にコンサート会場などに入るとき、ドキドキしなくて済むような、声を出すなど、少数の楽しみ方を許容する場が欲しい。」とソフト面の対応について指摘しました。ただ、例えばひと口に知的障害と言っても、脳性まひ、ダウン症、自閉症ではそれぞれ音の楽しみ方が違うため、どのような配慮を行ったらよいかは難しさがあると話しました。

 

帰りがけに、みなさんが活動する部屋の壁に飾ってある、紙で作られた木を見せていただきました。今はアジサイの花が飾られていますが、季節ごとに作り替えるそうです。この木もきっと、ここに通うみなさんの人生を彩るひとつになっているのでしょう。

                                                                                    (川村 2018.7.3訪問)