11月29日(水)『障害者福祉と文化芸術の関わりを考える勉強会』第4回をSTスポットにて行いました。
今回は、「舞台と観客の関係づくり~舞台手話通訳の現在」というタイトルで、
劇作家、演出家、舞台手話通訳の米内山陽子さんにお話しいただきました。
当日は文化芸術関係者や福祉関係者だけでなく、
手話通訳の方など手話に興味をお持ちの方もいらっしゃいました。
お話では、舞台手話通訳の役割、そして、
聴覚だけでなくすべての障害をお持ちの方が観劇を楽しめる、インフラ整備の必要性についてもお話いただきました。
コーダ(聴こえない両親を持つ聴こえる人)である米内山さんは、
物心ついた時から家での会話が手話で、視覚言語(手話)と音声言語のバイリンガルとして育ちました。
音声言語よりも先に視覚言語を発話したそうです。
障害のある人とコラボレーションした演劇作品『血の婚礼』に参加したことがきっかけになり、
演劇と手話を掛け合わせたことができるのでは、と思ったことが、
2011年からの舞台手話通訳活動のきっかけになったそうです。
舞台手話通訳は、舞台上で、聴覚に障害のある観客と作品を媒介する存在です。
いわゆる手話通訳との違いは、
聴こえない人に情報を伝えるだけでなく、
俳優がどういう熱量や声色でセリフを言っているのか、
というところまで伝えるところにあります。
その性質上、作品や演出を理解する必要があり、
俳優のようにチームの一員として、稽古から参加する場合もあります。
しかし、作品に入り込むかたちの、舞台手話通訳の仕事への理解はまだまだだ、と米内山さんは話します。
上演中、舞台上にいるので、ときおり異物として見られてしまうことがあるそうです。
また、聴こえない人にとっても、イメージしにくいところがあるようで、
舞台手話通訳の存在を
生活通訳(普段の生活のなかで病院や役所に行く時に同行する通訳)と同じようにイメージし、
それならいいか、と実際に足を運ぶことに繋がらなかったこともあったそうです。
情報を届けることの難しさを挙げられていました。
次に、舞台手話通訳をインフラの側面から見たときの話になりました。
「舞台手話通訳は、情報保障であり、観客の作品へのアクセスを保障するものです。例えば劇場の主催事業のうち、1回は、舞台手話通訳付きの公演があるようになるといい」と、米内山さんは語ります。
その後は、少人数クループに分かれて感想について話し合いました。
外国語のひとつのような感覚で、
手話での表現を当たり前に捉えることが重要ではないか、という意見があったり、
外国語から日本語への通訳をするときのように、
ただ情報を伝えるものだけでなく、
文化と感覚の違いを乗り越えようとするものなのではないか、
という意見が挙がりました。
手話を通じて、誰もが気軽に文化芸術の喜びを受け取るにはどうしたらいいのでしょう。
なかなか簡単に答えが出るものではないですが、
文化や感覚の違いを乗り越えようとする舞台手話通訳のように、
認識の違いを乗り越えて、理解を得ていく取組の必要性について、考えさせられる機会でした。
(弓井)