作業所から見える風景、地域とつながる方法

9月20日(水)、『障害福祉と文化芸術の関わりを考える勉強会』の

第1回をSTスポットにて行いました。

今回は「作業所から見える風景、地域とつながる方法」というタイトルで、

横浜市旭区にある地域作業所カプカプの所長である、

鈴木励滋さんにお話しいただきました。

当日は文化芸術関係者や福祉関係者などで会場は満席となり、

多くの方から関心が寄せられていることが感じられました。

 

お話では、知的障害などを持つ方が働くカプカプでの実践を通して

見えてきた地域とのつながりやアートとの関係性を、

具体的な取組み例を交えてご紹介いただきました。

 

初めに、なぜ地域とつながるのか、ということについてお話がありました。

例えばカプカプでは、近隣にある高齢者向けのサービスを行う

事業所と連携し、お互いの現場でつながった

困りごとのある高齢者や障害者のことを相談し合う関係ができていたり、

旭区内の障害者施設と、施設で行われている製品づくりや

当事者同士の交流について考える場があったりするそうです。

こうした関係づくりにより

障害の有無に関わらず「困った人がいたら助け合う」地域をつくり、

またそういった地域づくりの一員となる仲間をつくることが、

カプカプに通ってくるメンバーをはじめ

障害のある人を守ることにつながると、鈴木さんは話します。

 

そもそも鈴木さんの考える「障害」とは、

機能やかたちに違いがあったり

できないことや苦手なことがあったりするために

社会の中で力関係や不利益が生まれること、

つまり関係の問題であるといいます。

カプカプでは、この関係や、

さらにその根底にある価値観を変えていけるような

活動を続けてきました。

 

例えばカプカプを利用する障害のある皆さん、

通称「カプカプ―ズ」の仕事には、

製菓や手芸品づくりなどの生産活動に限らず、

似顔絵を描きながらお客さんとの会話を楽しんだり、

「いらっしゃいませ」の代わりに「かっとばせ」と声をかけ、

最終的には道行く人を応援するリサイクルショップの接客など、

物やお金が行き来するだけではないユニークな仕事があります。

ひとりひとりの魅力を生かすそれぞれの仕事が、

カプカプーズとカプカプを訪れる人たちとの関係を

生み出していることが伝わってきます。

 

役に立つか否かという価値観が主流となっている社会のなかで、

福祉の現場にも障害のある人に対して「こうあるべき」という指導や訓練が

行われがちであると、鈴木さんは指摘します。

もちろんそうした指導や訓練が合う方もいますが、

そうではない人に対して許容する場があることで、

居場所の選択肢が広がり、生きづらさをゆるめることにつながると考えます。

 

カプカプでは、ダンスや絵のワークショップが

長年にわたって続けられてきましたが、

こうしたアートの取り組みが、身体にしみついている

「こうあるべき」という意識を取り除いていることが

感じられるといいます。

そして、委縮しない、開かれた身体をもつことが、

自由な接客や日常のふるまいにつながっていきます。

アートは多様性を肯定し、価値観を揺さぶる手立てとなるのではないか、

とアートの可能性について話します。

 

「こうあるべき」といった整然とした世界に対し、

逸脱したものを許容し自分自身や関係を拡張させる世界を、

鈴木さんは「ザツゼン」と表現します。

そしてそれは、障害がある人だけでなく、

すべての人の生きづらさをゆるめるのだと主張します。

 

「ザツゼン」という言葉からは、

枠や境界線がなく思わぬものが隣り合ったり、

フォーカスの当て方によって発見があったりといった、

自由で豊かな風景がイメージされます。

閉じて抱え込まないことで広がる可能性は、

どんな人、どんな場にもあり得るのだと、

新たな視点を受け渡されたようなお話でした。

 

(川村)