障害のある人たちの日々の生活にふれる

 10月18日(水)『障害福祉と文化芸術の関わりを考える勉強会』第2回を行いました。

今回は、ゲストである中村麻美さんが施設長をされている、

地域活動支援センターひふみの場所をお借りしての開催となりました。

前回に続き多くの方にお集まりいただき、

参加者を目の前にした中村さんが思わず「圧迫感が…」とたじろぐ盛況でした。

会場には、先日ひふみに通うメンバーの皆さんで書いた習字が飾られ、

ひふみでの日常を垣間見ることもできました。

 

地域活動支援センターひふみには精神障害を抱える人が多く通っていることもあり、

今回は特にその部分に焦点を当ててお話していただきました。

 まずは精神障害を取り巻く現状として

「長期入院」「社会復帰と就労」「リカバリーとピア活動」

というキーワードが挙げられました。

1年以上精神科に入院している状態を長期入院と呼び、

日本には現在18.5万人と世界の中でも特に多くの人が

長期入院していることが問題視されています。

 背景には、家族が退院後の受け入れを拒否していたり、

入院中に賃貸契約が更新できずに住む家がなくなってしまったりといった、

本人の状態ではなく周囲の環境が要因で入院が長引いてしまう

「社会的入院」の問題が大きく、障害への理解に課題があることが感じられます。

その他にも、精神障害は生まれつきあるものではなく途中から抱えるものであるため、

自分自身の変化を受容する必要があるといったハードルについてや、

同じ病気を経験した人が施設の職員などとして仲間を支えるピア活動についてなど、

精神障害ならではの生きづらさや支え方があることが話されました。

 

続いて話題はひふみでの日々に移ります。

「ひふみでは、思いついたことをやるということを大切にし、

行き当たりばったりの生活をあえてやってみている」と中村さんは話します。

習字をしたり、みんなでメニューを相談して宅配ピザを注文したり、

フォークソングを歌ったり…。

それは、目標・目的主義に陥らず、生活に余白をつくることです。

「周囲はがんばる姿を求めがち。本人も演じてしまうが、

だめな部分もひっくるめて生活することが大事」という言葉に、

当事者を支える周囲と本人との関係のあり方を考えさせられました。

 

ひふみにある生活の余白は、地域の人も受け入れます。

ひふみの周辺には、高齢者施設や学校が近くにあり、

齢者や子どもたちが遊びに来ることもあるそうです。

認知症や発達障害を抱える方もいる中で、

「みんな何かしらのしんどさを持っている。仲間意識をどこまで広げられるか」

という視点で、地域の中でひふみという場を営み続けています。

例として、「死にたい」とよく口にしているあるひふみのメンバーが、

遊びに来ていたお客さんのぼやきを親身に聞いていたというエピソードを挙げられ、

他人のしんどさに目を向けることで、

自身にも変化が起こるきっかけとなることが感じられました。

 

中村さんがこうした居場所づくりを続けている背景には、

身の経験が影響しているといいます。

学生の時に世田谷パブリックシアターで行われたワークショップに参加した中村さんは、

「世の中にはいろんな人がいる」ということを実感し、

そのことは多感だったその時期の生きづらさがほぐされる思いだったそうです。

突拍子のない行動をする大人も、その場の和を乱す子どもも

そこにいていい』と受け入れる劇場は、いろんな人にとっての居場所でした。

「居場所が用意されていたのではなく、一部分にしてくれた」と、

そこにいるひとが、一緒に場をかたち作る一員として存在できることが、

居場所だと感じさせていたのではないかと中村さんは考えます。

 

今ひふみで起こっている“行き当たりばったり”な日々や、

自分もしんどさを抱えながらもつながりを持つことで

誰かの居場所になっている風景につながっていることが感じられるエピソードでした。

 

最後に少人数のグループに分かれて感想を話し合いましたが、

終了時間を過ぎても多くの人が残り、話が尽きることがない様子でした。

今日の話を受けて、それぞれがいま関わっている現場の作り方や、

そこにいる人、自分自身の関わりなどを見つめる新たな視点を得られた、

という参加者の感想が多く聞かれました。

ひふみでの障害のある人たちの日々の生活にふれることを通して、

中村さんの考えるアート『いかに枠組みを外れるたのしみを感じられるか』に

思いを巡らせる機会になったのではないかと思います。

(川村)